Alex in Hachinohe

 先日、地中海の小さな国・マルタ島から1人の女性写真家が八戸に滞在していた。EU諸国と日本の文化交流を目的に、1999年から行われている「European Eyes on Japan~日本に向けられたヨーロッパ人の眼~」は、ヨーロッパで活躍する写真家が日本を記録するプロジェクトであるが、47都道府県を順番に巡る今年のテーマ地が青森、そして作家に選ばれたのが、マルタ島のAlexandra Pace(愛称・アレックス)だった。

近年、観光地としても名高いマルタ島、その存在をご存知の方も多いと思う。マルタ島と八戸はほぼ同じ面積、人口はマルタが八戸の2倍ほどある。両国とも島国であること、また海が身近な土地であることなど、いくつかの共通点はあるものの、初めて日本に訪れたアレックスにとって、三週間で作品を撮るというのはさぞかしハードだったことだろう。

「写真家」とひとえに言ってもいろいろなタイプの作家がいる。アレックスは、その場所にもともと存在している人や風景のありのままの姿を次々と捉えていく写真家で、また「border」「edge」つまり日本語で言うところの「境界」や「端」に関心のある作家だった。地理的に日本の端っこに位置する青森県、海とともに生きる八戸のハマの人々、など、「その先に何もない」場所に暮らす人の生活や身体感覚に関心を持つアレックスの視点は斬新で、期待を裏切るほどユニークで美しい。

美しい、とは何か。それはこのプロジェクト全体のテーマでもあるが、一般的な観光PRに使われるような風光明媚なビジュアルとはまた別の「知られざる現代日本の暮らし」。その一瞬が捉えられていることにある。その中には、私たち日本人が見過ごしているもの、本質的な価値に気付かせてくれる力がある。

私たちの暮らす青森には、知らぬまま眠っている宝物がまだまだあるに違いない。時にこうして異国のアーティストが、その可能性を提示してくれることがある。

アレックスの作品は、来年度写真集や展覧会という形で紹介される。ぜひご注目いただきたい。